鳳仙花と赤い爪。『薬屋のひとりごと』から考える、植物を身体にまとわせる文化
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tae Aromatherapy & Treatment / tae Therapist School
【9月2日】

鳳仙花と赤い爪。
『薬屋のひとりごと』から考える、植物を身体にまとわせる文化
こんにちは、tae aromaです。
9月に入り、夏の終わりをすこしずつ感じるようになりました。
この時期になると思い出す植物のひとつに、鳳仙花(ホウセンカ)があります。
赤や桃色、白の花を咲かせ、熟した実に触れると、ぱちんと種を飛ばす鳳仙花。
日本では「爪紅(つまべに)」「爪紅花(つまくれない)」という名前でも知られています。
花びらをつぶして、その色で爪を赤く染めるためです。
以前の記事でも鳳仙花を取り上げましたが、今回は少し視点を変えてみたいと思います。
きっかけは、もちろん好きなアニメ『薬屋のひとりごと』。
物語は中国を思わせる後宮が舞台となっているようです。
薬、毒、香り、化粧、食べ物、植物.....
登場人物たちの暮らしと密接に関わっていて本当に興味深いアニメです。
その世界を見ていると、
「この植物は、実際にはどのように使われてきたのだろう?」そんな疑問が浮かんできます。
鳳仙花も、そのひとつです。
中国で使われてきた鳳仙花
鳳仙花の学名は Impatiens balsamina。
東南アジアを原産とする植物で、中国を含むアジア各地で、観賞用だけでなく、伝統的な植物利用の対象になってきました。
中国では、鳳仙花は観賞するだけの花ではありませんでした。
古くから、薬用や染色など、さまざまな用途と結びついてきた植物です。
明代の李時珍がまとめた『本草綱目』にも鳳仙花が収載されています。
これは、鳳仙花が中国の暮らしの中で、単なる庭の花ではなく、
「性質を持った植物」として認識されていたことを示す一例です。
花だけでなく、根、茎、葉、種子など、植物のさまざまな部分が利用されてきたことも記されています。
現代の研究では、鳳仙花から
フラボノイド、クマリン類、ナフトキノン類など、数多くの化合物が報告されています。
抗菌、抗炎症、抗酸化など、さまざまな生理活性について研究されています。
ここで少し注意が必要です。
これらは、植物そのものや抽出物、そこに含まれる成分について行われた研究が中心で、「鳳仙花を使えば、この症状に効果がある」と、人に対する効果までそのまま結論づけられるものではありません。
2023年に『Journal of Ethnopharmacology』に掲載されたレビューでも、
鳳仙花について、伝統的な利用、含有成分、薬理作用、毒性などが整理されています。
一方で、臨床応用に向けては、さらに研究が必要であることも示されています。
アロマオタクの私は、植物のことを調べていると、
「昔から使われてきた」という事実から、その昔の文献に書かれた効果まで、つい紹介したくなります。
でも、「昔から使われてきた」ことと、「現代医学で効果が証明されている」ことは別の話。
これは、植物について書くときに、いつも心に留めておきたいことです。
昔の人が植物をどのように使ってきたのか、そこには、その時代の経験や文化、知恵があります。
一方で、現代の研究で何が確認され、何がまだ分かっていないのか。
その両方を分けて見ていく。
植物と長く、楽しく、安全に付き合っていくためには、そんな視点も大切なのだと思います。
そして、鳳仙花は「爪」を染めた
鳳仙花が日本で特に印象的なのは、やはり爪紅です。
花びらをつぶし、場合によってはカタバミの葉などと合わせ、その色で爪を赤く染める。
江戸時代には、鳳仙花とカタバミの葉をもみ合わせた汁で爪を染める「爪紅」が行われていました。
1765年の『絵本江戸紫』にも、爪紅をする女性の姿が描かれています。

さらに、日本では16世紀、天正年間にはすでに爪紅が行われていたことが、ルイス・フロイスの『日欧文化比較』に記されているとされています。
現代のネイルよりずっと前から、「爪に色をつける」という美容文化が日本にあったわけなんですね。
鳳仙花が日本に渡来したのは室町時代とされ、東南アジア原産の植物が、やがて日本の庭や暮らしの中に根づいていきました。
「魔除け」としての鳳仙花
ここからが、今回あらためて調べてみたかったところです。
鳳仙花には、「魔除け」という意味もあったのだろうか?
答えは、
地域によって、そのような伝承が確かに残っています。
*国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪伝承データベース」には、
沖縄県那覇市で、「鳳仙花で爪を赤く染めると毒虫に刺されない」という伝承が記録されています。
*また、八重山郡竹富町では、
「鳳仙花で爪を赤く染めるのは女性の御守りとなり、魔除けともなる」と伝えられていました。
*鹿児島県にも、
鳳仙花で爪を染めると逆むけをしない、蛇に噛まれないという伝承があります。
ただ、「昔の日本では、鳳仙花で爪を染めることが一般的な魔除けだった」とまで広げるのは無理があるようです。
爪紅という美容文化と、地域に残る魔除けの伝承。
この二つは、重なる部分がありながら、同じものではないのです。
赤い色に託されたもの
なぜ「赤」だったのか?
ここは、答えが沢山ありそうです。

赤は古くから、血、生命、火、太陽などを連想させる色として、人々の暮らしの中で特別な意味を持ってきました。
鳳仙花で爪を赤く染めた人が、全員「魔除け」を意識していたわけではないと思います。
美しく見せたい。
季節の花を楽しみたい。
女性らしい身だしなみとして整えたい。
地域によっては、お守りとして身につけたい。
植物の色には、こんないくつもの意味が重なっていたのかもしれません。

指先、爪は、身体の境界
考えてみると、爪は不思議なパーツです。
身体の一部で、外の世界に最も近い。
手指を使い、ものに触れ、人と触れ合い、仕事をし、料理もする。
その指先に植物の色を置く。
単なる装飾だったのかもしれません。
同時に、
「自分の身体を守る」
「自分を美しく見せる」
という感覚にもつながっていたのかもしれない。
現代でも、ネイルカラーを塗ることがあります。
好きな色を選び、爪を整える。
それだけで、少し気持ちが変わることもあります。
現代のネイルと昔の爪紅を同じものとして語ることはできません。が、
身体の小さな部分を整えることで、自分自身を整えていく。
この感覚は、どこか共通するものがあるのかもしれない、と思ったりします。
植物は「薬」だけではない
先週はシナモンについて、
食品としてのシナモン、漢方で使われる桂皮、そして精油というように、同じ植物でも形が変われば私たちとの距離が変わることを書きました。
鳳仙花も同じです。
薬として。
染料として。
観賞する花として。
そして、身体を飾るものとして。
植物は、人間の暮らしの中でさまざまな役割を担ってきました。
「何に効く植物なのか」だけではなく、
「人は、その植物をどのように暮らしの中に取り入れてきたのか」
考えてみると、植物と人との長い長い関係が見えてくるようです。
9月。夏の花が少しずつ終わり、秋の植物へと移っていく季節です。
道端の花や庭の植物を眺めながら、
「昔の人は、この植物をどんなふうに使っていたのだろう」と想像してみるのも楽しいものです。
植物は、身体を治すものだけではありません。
色を与え、香りを与え、季節を知らせ、時には「お守り」という意味まで託されてきました。
その長い歴史を知ると、いつもの植物が少し違って見えてくるかもしれませんね。
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鳳仙花と赤い爪。
『薬屋のひとりごと』から考える、植物を身体にまとわせる文化
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